日本語教師発話コーパスでこんなことをやってみました
 事例1:『日本語教師が用いる「あのー」』

ここでは、代表的なフィラーとして取り上げられる「あのー」について調べてみたことをもとに、このコーパスでどのようなことが見えるのかを考えます。

「あのー」について

「あのー」は、典型的なフィラーのひとつとされる。この「あのー」がやく23時間の日本語教師発話に使われていたのかを調べると、以下のようになった。

結果No. 発言者 発言ID 発言
1 教師 105 T:あ,そんなにいいところは今まで見ていません。それも,その,そんなにを,, は,どこですか。の話よね。,,,あのー,それってみなさん,どんな時使いますか。それ,これそれあれ,の,それ。
2 教師 226 T:ん。ごめんなさい,あのー,日本語でお願いします。【教室内である学生が周りを気にせず自分の思うことだけをしゃべり続けることに対して学生がクレーム→教師が叱る】
3 教師 309 T:そうそう,あのー,意味が違うから違うんです。ことばが。はい。
4 教師 320 あのー,まあ,プレゼントでも,何か気持ちでも,人から人にこう,動きますね。これが,あげる,,もらう,。で,その時に,この,もらう,と,くれる,はちょっと意味が違いますよ,ということ。
5 教師 505 T:あー,これは,あのー,動詞とセットだからです。,なになににもらいます,,なになにがくれます,というのはセット。
表1 「あのー」の検索結果の一部

「あのー」に関しては、全体で52例、見られた。「あのう」は4件であった(本コーパスは、発話を行なった教師自体に文字化を依頼しているため、フィラーなどには音声状の差異が見られる。この点については、2018年の更新で統一予定である)。

日本語教師発話コーパスでは、それぞれの発話がどのような場面で見られたかを調べることができる。その例として、発言ID5640を取り上げてみる。

発言IDでは、その発話が行われた場面の詳細情報を見ることができる。以下の表2は、発言ID505で見られる「あのう」前後の発話である。


表2 発言された「あのー」前後の発話

表2「あのー」前後の発話を見てみると、「あー」と言い淀んだあと、「あのー、動詞とセットだからです」と言っていることがわかる。「あのー」について、定延・田窪 (1993, 1995) は、情報の検索時、モノのイメー ジはつかめているが、名前がまだ思い出せていない状態(話し手の「名前、検索」)の際によく現れるとされている。また定延・田窪 (1993: 17) は「あのー」が「名前の検索」 の他に「発言内容に対する編集操作」を挙げ、それらをまとめて「話し手が発言すべ き内容をうまく言語で伝えるための心的操作を行っている際に現れる外向型操作標識」 であるとしている。これらをまとめると、言いたいことはあるものの、なんと言えばいいかわからない、考えているときに「あのー」が使われるということであろう。上記の発話は、いまの日本語学習者のレベルでは、難しい説明を教師が行うという場面である。その状況を考えると、内容はわかっているものの、言い方がわからない場面というように考えることができる。

以上が「あのー」について、簡単に調べてみた結果である。ここで取り上げた「あのー」は、川田(2008)のいう「現れるフィラー」であると思われる。川田(2007)の言う「現れるフィラー」とは、話し手の意図とは無関係に表出されるものとされているものである。一般的に日本語教師の発話は、日本語学習者が理解しやすいようにコントロールされていると考えられているが、この「現れるフィラー」については、話し手の意図とは無関係に表出されるものであり、どうやらコントール下から離れやすい傾向があるようである。本研究で開発を進めている『日本語教師発話コーパス』は、このような言語表出の観察に有用であると考えている。

日本語教師発話コーパス開発者 立部文崇

参考文献

研究発表・報告書など(本コーパスの開発過程報告書、コーパスを用いた研究発表など)